アートセラピーが自閉スペクトラム症(ASD)の大きな助けになる!

 

5歳の画家 アイリス

この絵はアイリス・グレイス(Iris Grace)ちゃん(当時5歳)が描きました。

 

イギリス中部レスターシャーの村で両親と暮らすアイリスちゃんは、

2歳の時に重度の「自閉症スペクトラム障害」と診断されました。

 

誰とも目を合わせない、声を発しない、

大きな音が我慢できない、寝ない、、、

 

アイリスの母、アラベラ・カーター・ジョンソンさんは、

「自閉症」という診断に

何をどうすればいいか分からず

適切な治療や支援もないまま、

戸惑いながら娘との交流の仕方を模索していきました。

 

アラベラさんがまずしたことは

娘を「理解・受容」することでした。

 

試行錯誤しているうちに

一つ大きな発見がありました。

 

自然の中にいるとき、そして、

たくさんの色に囲まれて一人でいるとき、

アイリスちゃんは非常に落ち着いているということ。

 

親とも目を合わせて話すことが難しかったアイリスちゃん。

母のアラベラさんは娘と交流するために

まず自然の中でアイリスチャンの心を落ちつかせ、

そこから、興味をもったものを通して、

「心の交流」を始めていきました。

 

そして、(言語療法の一環として)たまたま絵を描かせたところ、

アイリスちゃんの非凡な才能を発見することになりました。

 

数々の絵はフェイスブックで話題になり

世界の人の心を捉えました。

 

彼女はまだ話すことはできませんが、

絵を通して、両親と世界とコミュニケーションをしようとしています。

 

アイリスちゃんの絵をもっと見たい方はこちらをクリックしてみて下さい

アイリスちゃんの絵はもちろん、自閉症スペクトラムについての詳しい情報も載っています。(英語サイト)

自閉スペクトラム症(ASD)ってなんだろう?

「自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder: ASD)」

耳にすることが多くなった言葉の一つですね

 

特徴を一言でいうと

対人関係が苦手・強いこだわりといった特徴をもつ発達障害の一つです

 

具体的には

言葉や、言葉以外の方法(表情、視線、身振りなど)から

相手の考えていることを読み取ったり、

自分の考えを伝えたりすることが不得手だったり

特定のことに強い興味や関心を持っていたり

こだわり行動があるといったことによって特徴付けられます

 

体を前後に揺すったり、

くるくると回ったり、

光の前で手をひらひらさせたり、

昆虫や機械系に博士並みに知っている、

などあらわれ方は人それぞれです

 

自閉スペクトラム症の症状は、幼少時から認められ、

多くの場合、3歳までに診断が可能です

 

(American Psychiatric Association, 2013; De Bildt et al., 2007; Doreleijers, Boer, Huisman, Vermeiren, & De Haan, 2006; Rozga, Andersson, & Robons, 2011)

https://www.psychiatry.org/patients-families/autism/what-is-autism-spectrum-disorder

主な特徴をまとめると

・ 他人の表情、考え、気持ちがくみ取るのが苦手

・ 目を合わせるが苦手

・ 「指さし」がすくない

・ 「模倣」が少ない

・ 笑いかけても微笑み返さない

・ 言葉の発達、語彙の広がりが少ない

・ 強いこだわりがあり、

・ 同じことを繰り返すことが好き

・ 感覚過敏がある(音や光に過敏に反応する)

知的能力障害(知的障害)を伴わず、言葉の発達が良好な場合には、

小学校入学後や、成人になってから初めて診断を受けることもあります。

 

原因には諸説ありますが、

これまでの研究結果からは、

人生早期から認められる「先天的な脳の機能異常」で

遺伝的な要素が発症に関与していると推定されています。

 

一昔前は、親の子育てが原因と言われる時代もありましたが

今は否定されています。

 

現在アメリカでは54人に1人がASDと診断されています。

(アメリカ疾病予防管理センターCDC、2020
https://www.cdc.gov/ncbddd/autism/data.html)

2008年にくらべ30%も増加しています。

日本のはっきりしたデータは見つけることはできませんでした。

 

これは、アスペルガー症候群がASDに加えられたこと

家族の意識が高まり早めの診断が行われているのにも

原因がありそうですが、

それにしても

数は増えている。

 

ASDの子どもたちとアートで会話

ASDの子どもたちは

脳の発達の仕方の違いから

「言葉を使うこと」が苦手です。

 

そのため、言葉を使わないコミュニケーションである

非言語アートによるコミュニケーションは大変役立ちます。

 

アートを使った心理療法に

「アートセラピー(芸術療法)」というものがあります。

 

言葉ではなく「イメージ」で会話しながら

心を開放していく一つの心理学療法の一つです。

 

言葉を使った交流がむつかしいASDの子どもたちにとって

アートでの会話は有効であるという報告が多々あります。

 

アートは

五感を刺激し、

集中力を養い、

認知の発達を促し、

描くなかでリラックスの感覚を身につけることができる。

 

描くという「自己表現」を通して

他の人との交流も学ぶことができます。

 

アートセラピーを定期的に受けた

ASDの子どもたちを追跡調査したいくつかの報告によると

 

子どもたちは

・自宅と同じくらいリラックスし、

・問題行動が減り、

・柔軟性が生まれ、

・自分に自信を持ち始め、

・計画性が上がり、

・コミュニケーション能力が向上し、

・表現力豊かになり、

・自分の困っている問題をセラピストに話すことができるまでになった

という事例が報告されています。

(Emery, 2004; Gilroy, 2006; Pioch, 2010; Teeuw,2011)

 

アートセラピーの現場に両親や家族が参加すると

その効果はさらに上がっているとのこと。

(Schothorst et at., 2009, Werheiji, Westermann, & Manurer 2014)

(ただ、倫理的な問題で親同伴のカウンセリングは一般的ではありません)

子どもたちの療育にアートセラピーを!

アートセラピーは

とても効果があがっているにも関わらず

科学的データが非常に少ないため

日本ではまだまだ知名度が低いのが残念なところ。

 

この分野の歴史は100年にも満たないため、

信頼性と情報量が少ないことが普及しない壁になっているようです。

 

アートセラピーが日本で普及しない理由として

もう一つの壁があります。

 

それはトレーニングをうけた

アートセラピストが日本に少なすぎること。

 

アートを使ったカウンセリングには

通常のカウンセリングと同程度の知識と経験が必要です。

 

欧米では、アートセラピスト(芸術療法家)は心理学とアートの

修士レベルのトレーニングを受け、

臨床家として活躍できる場所があるのですが、

まだまだ専門家としての基準が設けられていないのが現状です。

 

アートセラピーは

ニューヨーク州では、911後のカウンセリングでの功績も認められ、

2006年よりメンタルヘルス(精神保健)州認定資格として

保険適用になった、という実績あるものです。

 

ASDだけでなく

すべての子どもたちの「療育」の「選択肢」として

気軽に受けれる日が来ることを心待ちにしています。

Reference:

Schweizer, C., Spreen, M. & Knorth. J. E.(2017). Exploring What Works in Art Therapy With Children With Autisum: Tacit knowledge of Art Therapists.